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【インタビュー】板垣巴留『BEASTARS』 今年最注目新人漫画家・板垣巴留の1万字インタビュー、後編公開!

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『このマンガがすごい!2018』オトコ編第2位を皮切りに、「マンガ大賞2018」大賞、「第21回文化庁メディア芸術祭マンガ部門」新人賞、「第22回手塚治虫文化賞」新生賞、そして「第42回講談社漫画賞」少年部門受賞と、近年まれに見る勢いでマンガ界を大暴れ中の『BEASTARS』。
編集部は、大注目を集める著者・板垣巴留先生にインタビューを決行!

前回公開されたインタビュー前編では、本作の誕生秘話から影響をうけた作品を赤裸々に語っていただきました! 本日公開の後編では、板垣巴留先生が本作にこめた想いにせまります!

著者:板垣巴留

2016年デビュー。週刊少年チャンピオンで読み切り連作「BEAST COMPLEX」を掲載後、「BEASTARS」連載開始。

第1話で、まずこの世界の全貌をつかんでほしかった

――読み切りシリーズの『BEAST COMPLEX』を経て、いよいよ『BEASTARS』を始めるにあたって、どのあたりまでストーリーを描こうと?

板垣 何も決まっていませんでした。「長期連載」ということで始まって……でも終わるときは終わると知っていましたが。今第8巻まででていますが、ここまで来れてうれしいですね。

――変わったマンガだと思いますが、読者にこの世界が受け入れられる手応えはありましたか?

板垣 まだ大学卒業から間もなくて、私もけっこうとがってたというか(笑)……「けっこういけるんじゃ? 見てくれ!」くらいの気持ちはありましたね。近いものはあっても今までこういう作品はない、独自性はあるはずと思っていましたので。

――編集さんとしては?

編集 『BEASTARS』を開始させたのは前の担当ですが……「週刊少年チャンピオン」は週刊少年誌としてはどっちかというと異端というか(笑)。「努力・友情・勝利」を担っていないので、おもしろければいいやくらいの感じで。

(一同大爆笑)

編集 結果、『BEASTARS』の読者層はすごく広いですね。男性、女性は半々くらい。20〜30代の男女が中心で、50〜60代の女性からもファンレターをいただいています。

――ストーリーの結末も、特に決めずに始まったんですか?

板垣 なるようになるだろう、という感じで(笑)。

――とりあえず、第1話は食殺事件で幕を開けるので……犯人がだれなのかは描かなきゃならないですよね?

昨日までいっしょにいた友だちが、校内のだれかに食べられるという衝撃的な事件で幕をあけた本作。はたして犯人は……?

板垣 それが、そうとは思っていなかったんです。第1話の事件は、この世界の説明として……「この世界で一番起きちゃいけないこと」を、まず提示しようと思って描いたものなので。第2~3話目のネームの打ちあわせをしているときに、担当さんに「犯人はだれなの?」と聞かれて、「あ、犯人決めなきゃいけないのかと」(笑)。その場はなんとかごまかして……結局、犯人探しを今の今まで引き延ばしているわけですが。

――なるほど。今となっては第1話がそういう意図で描かれたのは納得です。自分の常識で想像していた「動物たちの物語」とは違うと、ドキッとさせられましたし。

板垣 こわい世界だよっていうのをみんなに知ってもらいたいなと思って描いたので。それが今、軸になってくれるとは思わなかったです。

――最初に「これを見せる」と投げかけたように、そのつど見せたいものを見せていくスタイルで描き進んでいる感じですか?

板垣 そうですね。さすがに、ぼんやり結末は考え始めていますが。

――いろいろ要素が多いですしね。学園内の問題、レゴシとハルちゃんの関係、それから「ビースター」について。当初は「ビースター」がだれになるかを大きい軸として考えていたのでしょうか。

種族の違いを超えて世界を牽引する存在、"ビースター"。
最有力候補であるルイが失踪をとげた今、だれがその座につくのかまったく読めない展開に!

板垣 はい。とりあえず、縦軸は必要といわれたので「ビースター」という存在をつくって、そこを目指して進めばいいかと思ったので。途中はレゴシとハルちゃんのラブストーリーをメインにしてもいいかと思っていたんですけど、思ったよりいろんな要素が入ってきたので、そういうわけにもいかなくなってきましたね。

回を重ねるごとに少年マンガのツボがつかめてきた

――学園主体と思いきや、裏市がでてきたのも意外でしたね。当初は、世界観を示すひとつの描写だと思っていたので、ここまで濃厚に絡んでくるとは。

大通りから一歩踏み込んだ場所に存在する裏市。草食動物たちの肉を入手することができるこの場所には、肉食動物がのさばっている。

板垣 私としても、こんなに比重が高くなるとは思わなかったです。でも、裏市の話を描くのが楽しくなってきて。みんなが欲望に正直になっている場所なので。

――肉食動物と草食動物の違いや、共存のあり方、問題点を生々しく描きやすいのが裏市?

板垣 そうですね。まだ単行本に入ってないですが、裏市にも経営者側の草食動物がいて……最初は考えてもいなかったけど「そういうやつもいるよね」と思いついて楽しくなったり。描きながら発見があります。

――裏市の場面が増えて、ゴウヒンさんの存在感も大きくなっていますよね。この役どころがパンダというのも、パンダのパブリックイメージを裏切っていておもしろい!

裏市の頼れるドクター・ゴウヒンは、パンダのキャラクターによくある、温厚とは真逆の激しい性格で、レゴシを守ったり追い詰めたり(?)。

板垣 かわいい動物というイメージですが、クマですからね……。クマなのに笹しか食べないところが好きです。笹しか食べないって、おかしいですよね。しかも、絶対おいしいと思ってなさそうだし! 不思議な動物ですよね、白黒の比率も変わってるし。

――動物の生態は、作品にどのくらい忠実に反映させようと?

板垣 マンガに描いておもしろくなりそうな、この生態が魅力的だなと思うところをピックアップして描いています。たとえばルイの角が生え替わるとか。 シマウマの柄は草原の景色にまぎれるためにあるという話が好きなので、学校での生態時間のエピソードに入れこんだり。

2日に1度設けられている「生態時間」。それぞれの動物たちがいやされる部屋の設定がおもしろい!

――生態時間のエピソードはおもしろいなと思いました! 随所に差しこまれるこの世界ならではの小ネタも楽しみです。

板垣 自分で世界をつくるからにはキャラにストレスを与えたくなくて。ルールが多い世界ですが、できるだけ快適に過ごしてほしいと思っているので!

――ルイが裏市の世界に行ってしまうのも、意外な展開でした。

草食動物ながら、ライオンだけで構成された"シシ組"のボスに君臨することになったルイ。裏市でもそのカリスマ性は健在だ。

板垣 これも決めていたわけではないのですが、ルイは叩けば叩くほど強くなる、魅力的になるキャラだと初登場くらいからぼんやり思っていて。いつか挫折させたいな、と。こういうかたちになるとは思ってなかったですが、いじめぬいてますね。いじめるほど深みが増して、好きになっていくキャラクターです。でも、ルイがステーキを食べるシーンは描いていて心が痛みましたね。自分もおなかが痛くなってきて……。

――板垣先生は、読者としては少年マンガには触れてこなかったそうですね。

板垣 子どもの頃は「ちゃお」が大好きで。でも、少女マンガを描く才能は自分にはないなと思って……。ほかにはエッセイマンガや、青年マンガをよく読んでいました。中学生からはマンガよりも、映画をたくさん観てきて。

――“大きいストーリー”は映画から補給してきたのでしょうか。

板垣 映画はいろいろ観ているほうだと思うんですが、ファンタジーやSFよりも人間ドラマ的なのが好きで。一番好きなのは『ブラック・スワン』。追い詰められた極限状態の、人間の果てを見るような映画が好きなんです。『ソウ』の1作目とか、黒澤明監督の『生きる』とか。あと、家族で見てた『白い巨塔』のドラマが好きです。人間のこわいところも、いいところも見せてくれる作品だと思います。

――群像劇で、ハードな事件が起こった時に向かわざるを得ない個々の本質や問題点が見えてくるところは『BEASTARS』と共通しているかも。だから「動物版青春ヒューマンドラマ」というキャッチコピーになるんですね。少年マンガ誌で連載するにあたって気をつけていることなどはありますか?

板垣 会話のシーンを描くのが好きなんですけど、そればかりにならないように。それから、主人公の正義感を大事にすること。応援したくなる主人公にしないといけないなと。「週刊少年チャンピオン」のほかの連載作を読んでいるうちに、少年マンガの気持ちよさがだんだんわかってきて、レゴシもだんだん少年マンガの主人公っぽくなってきてるんじゃないでしょうか。

板垣先生のお気に入りキャラクター"ロクメ"による導きで、未解決だった食殺事件が動きだす!

――最近とみに変わってきましたよね。アクション、ダイナミックなシーンも増えてきていますし。

板垣 ページをめくったときにハッとする感じ、緩急から伝わる気持ちよさを重視するようになってきました。少年マンガの世界は奥深いです。まだまだ勉強中ですが。

描くことを通して未知のものに触れ、発見するのが楽しい!

――本作は、動物の生態そのものがカギでありつつ、“人間くさい”葛藤が描かれているマッチングが、斬新なのだと思います。なかでも、性愛と食欲を絡ませたところは衝撃的でした。

初めて行った裏市で、レゴシは己の本能の威力を改めて知ることとなる。

板垣 そこは自然に思いついていたことで……『BEAST COMPLEX』にもオオカミとラクダの話があります。特別な感情が芽生えて「女性が男性を食べるシーン」を描きたいと思っていたんです。

――レゴシとハルがラブホテルに行くところは、大きな山場でしたね。

板垣 あの回は、とても描いてみたかったシーンです。2人がそういう状況になったらどうなるのかと……。描くことを通して、未知のものに触れるのは楽しいです。

食欲と性欲が混在する世界で、ラブホテルに2匹っきりになってしまったハルとレゴシ……この続きはぜひコミックスで!

――2人がどうなるか、ネームを描き始めるまで決めていなかったんですか?

板垣 はい。描いてみないとわからないということは、けっこうありますね。キャラが、自分が想定してたプロットとは違う動きをしていくということは、最近より増えてきました。その分ネームにすごく時間がかかるんですけど、前よりそれが不安じゃなくなってきました。少しは、それでもなんとかできるという自信がついたのかもしれません。

――読者さんからの声で印象に残っていることはありますか?

板垣 レゴムのたまごサンドの回(第3巻収録・第20話)や、SNSの回(第8巻収録・第70話)を好きだといってくださる方が意外に多いことです。

板垣先生のかぶりものにもなっている人気キャラ"レゴム"がメイン回となった第20話では、食欲と性愛が混在する世界観が顕著に描きだされた。

――たまごサンドの回、インパクトありましたよね。隣の席の女子(※メンドリ)が産んだ卵のたまごサンドを食べてるって、なんだか衝撃的で。SNSの話は、まさに旬の話題というか!

いかに"いいね!"がつく写真をあげられるかの投稿合戦! 身に覚えのある方も多いのでは?

板垣 あれは……仕事場でいつも私が「インスタ映え」を罵倒してるのを、仕事場のみんなが「うっとうしいな」と思ってるのを感じはじめたので、ここはマンガに描いてサッパリしないとダメだなと(笑)。ちょうどこれを描いてる頃、テレビでも、なにかにつけては「インスタ映え」って連呼していて。周りの目を意識して自分の生活にきれいなフィルターをかけて投稿するっていうのは、私には理解できない価値観ですが、ある真理なんだろうなと思って。本当はもっと毒づきたかったのですが、ピーチちゃんとシイラが案外あっさり仲よくなっちゃって。

いいね!のためでなく、純粋にツーショットを撮れる仲になった2匹の姿がほほえましい。 第8巻の巻末には、この時撮った写真をみることができる。

――勝手に仲よくなっちゃった?

板垣 思ったよりシイラがいい子だったり、ピーチちゃんもかわいい面があったりで……キャラが動いてしまったら自分も干渉できないし……。

1人ひとりの悩みをていねいに描いて、みんながそれぞれのゴールに到達できるように

――こんなふうに先生が日々感じていることがヒントになることもあるんでしょうか。

板垣 わりと……人と話していると、いろんなことを考えるじゃないですか。正しさってなんだろうとか。自分はこの人のこういう発言が嫌だと感じるけど、その人にはこういう背景があるからその発言がでるんだろうとか。それぞれにたいへんさがあるんだなと思うことが多いです。

――人それぞれ、ケースバイケースですよね。ひと言でいい切れることはなくて。たとえば「へこんでる人にがんばれっていっちゃいけない」とか、決めつけるのもいかがなものかとかと思うんですが。今って、みんながもののいい方にデリケートになっている時代なので。

板垣 それ、めっちゃ思います! 少し過敏じゃないかと……。

――「オレを草食でまとめるな!」とルイがいい放つシーンはカッコよかったですね。少なくとも自分に関しては、手加減するな、と。

肉食=凶暴と思われたくないレゴシと、草食=弱いと思われたくないルイ。どちらも、イメージで勝手に語られたくないという想いは同じだ。

板垣 1対1で話さなきゃいけないことって山ほどあって、問題を外から見ている側だけの人間がガヤガヤいいすぎだなと感じることがあります。ここでレゴシとルイがちゃんとお互いの主張をできたのはよかったと思っています。

――「みんなそれぞれに違ってみんないい」と肯定しつつ、ぶつかりあって認めあう、いろいろな共存のしかたが描かれていると思います。

板垣 私自身、毎週発見があるんです。ルイとジュノが2人きりで話しあった回で、2人のことがすごく好きになれたし。ジュノがルイにこんな感情を抱いてたのかとか。毎週いろんなことを見つけていくみたいなライブ感があって、自分にとっては日記のような存在でもあって。だから、まだ客観的には読み返せないのかもしれません。

――「ビースター」がだれになるのか、それによって世界がどうなるのかを描くのはまだだいぶ先ですか?

絶対的リーダー・ルイが学校を去った今、もっともビースターに近いのは……ジュノ説が濃厚!?

板垣 今描いてる事件解決パートのあとで、そろそろと思いますが。そのためには、だれにするかを決めなきゃいけないんですよね。

――え、そこも決めてなかったんですね!

板垣 だれでもいい気がしていて……みんながちゃんと自分の納得のいく終着点に着くことができれば。

――「食殺犯人探し」も、「ビースター」の決定も話の筋としては重要だけど、それがだれであるかが物語の答えではないんですね。

板垣 私が描きたいのは、大きいゴールがあってみんながそれに向かっていくより、小さいゴールがいくつもあって、みんながそれぞれ散っていく物語なのかなと思うんです。

みんなそれぞれのゴールにむかうという物語の現代性も、評価された理由のひとつかもしれない。

――そこも含めて『BEASTARS』は“多様性の物語”なのでしょうか。

板垣 あまり少年マンガっぽくないビジョンかもしれないですけど、『BEASTARS』はそのほうがいいのかなと。

――少年マンガの直球ではないですが、すごく現代性のある物語だと思います。

板垣 風刺しようという気持ちはないですが、キャラクター1人ひとりの悩みを描いていった結果、社会の実像が浮かんでくるようなところはあるのかもしれません。キャラが増えるにつれて描くことも増えるので、どんどん掘ろうと思えば掘れるのですが、終わりはきれいに迎えたいし。そこは考え始めてます。

――そのうちに描いてみたいテーマや題材はありますか?

板垣 人間の話は描いてみたいです。もっと日常的な話でもいいし。でも、私が描くとやっぱり変な話になっちゃいそうな気もしますが(笑)。いつか描いてみたいのは、同性愛です。異なる種族間のものを描いているから、同じもの同士の関係に興味が向いているのだと思います。男同士、女同士といってもBLや百合というジャンルではない、人間の同性同士の物語を描いてみたいです。

――いつか読めるのを楽しみにしています! 最後に読者へのメッセージをお願いします。

板垣 いよいよ第1話の食殺事件の回収をちゃんとしますので……最初から読み返しながら楽しんでいただけたらと思います。これからもよろしくお願いいたします。

週刊連載+受賞ラッシュと多忙を極めるなか、ロングインタビューに、快く対応してくださった板垣先生。物語の続きを楽しみにしています!

――ありがとうございました。


コミックス第9巻は、明日7月6日発売です!!

『BEASTARS』 第9巻

板垣巴留 秋田書店 ¥429+税
(2018年7月6日発売)

取材・構成:粟生こずえ

©板垣巴留(秋田書店)2017


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