【インタビュー】おざわゆき『傘寿まり子』 年の功で人生を切り開く! 私たちが80歳ヒロインを応援してしまうワケ。
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人気漫画家のみなさんに“あの”マンガの製作秘話や、デビュー秘話などをインタビューする「このマンガがすごい!WEB」の大人気コーナー。
今回お話をうかがったのは、おざわゆき先生!
『このマンガがすごい!2018』オンナ編第2位、そして第44回講談社漫画賞一般部門を受賞した『傘寿まり子』の主人公は、なんとひ孫もいる80歳のまり子!
一見かわいらしいおばあちゃんの、のほほんストーリーを想像するが、驚くことなかれ。
まり子は第1話から、3世帯住宅からの家出をやってのけ、第2話でさっそくマンガ喫茶デビューをはたす……など、その品のある見た目とは裏腹に、かなり根性と行動力のあるおばあちゃんなのである。
前回のインタビューでは、まり子の誕生秘話や、物語にしばしば登場する高齢者が直面していることについてなど、たっぷり語っていただいた。
今回はさらに今作の魅力であるリアルな80歳ヒロインの描き方や、本日発売の最新刊の見どころに迫る!
おざわゆき
愛知県出身。
高校生の時に集英社の少女マンガ誌「ぶ~け」でデビュー。代表作に夫・渡邊博光との共著『築地まんぶく回遊記』(ぶんか社)、『築地あるき』(飛鳥新社)や、実父の体験を描いた『凍りの掌-シベリア抑留記-』(小池書院)など。母の戦争体験を元に描いた『あとかたの街』(講談社)にて、第44回日本漫画家協会賞を受賞。現在は「BE・LOVE」にて『傘寿まり子』を連載中。
切られる作家と、切る編集者、両方の気持ちを理解したい
――ところで、まり子を小説家にしたのはなぜだったのでしょうか。
おざわ 職業を持たせようと思って……80歳で仕事を続けているとして小説家はありかなと。
――モデルにした小説家はいますか?
おざわ モデルはないですね。大ベテランの現役小説家というと思い浮かぶのは佐藤愛子さんや田辺聖子さんですが。当初、まり子さんは性格的にもうちょっと強いイメージだったのですが、そうはなりませんでしたね。
――瀬戸内寂聴さん、故・宇野千代さんみたいな……? でも、まり子さんもふだんは柔らかいけれど、十分強いと思いますよ! 高齢に伴う問題が次々にたたみかける展開のなか「連載打ち切り」は本作のなかでもかなり大きな軸として考えられていたのでしょうか。

おざわ 最初はそういうつもりだったわけではないのですが、私が常々思ってきた創作者としての不安をまり子を通して描く、というかたちになっています。つながっていると思った橋がいつのまにか切れていたというのが、今の創作者の現実なんじゃないかと。もちろん編集者にしても創作に対して愛情はあって、売れいきの数字だけで事務的に作家を切るのは辛いと思うんです。だけど、現実的に本が売れなくなっている今、雑誌が生き残る道を考えたときに、数字がとれない作家を切るのはやむをえない。作家と編集者、両方の気持ちを考えながら描いています。

――そこで、発表の場を失ったまり子さんが、ウェブマガジンという新天地を見つけるわけですね。
おざわ 小説家であるまり子さんが、編集という立場に初めて立つことになります。初めての編集、そして未知のウェブという土壌ですから、困難は2倍です。
――第5巻でまり子さんが初めてくらはらさんと会い、WEBマガジンの協力を依頼するシーンで、くらはらさんにボロカスにいわれるのが、本作のいい意味で厳しいところですね!

おざわ ここは、若い人が「それはないんじゃないの」と、本音を吐きだす大事な場面です。そんなにヌルくて甘い考えで、現代というものを知ろうともせずにうまくいくわけないんですよ、と意見しなくちゃいけない。だって、そう思いますよね!?
――はい。ここでスイスイいったらファンタジーですよね。
おざわ くらはらさんのキツい指摘を乗り越えることで進んでいく、という構図があれば納得して読んでいただけるのではないかと。

おざわ この時は男性のつもりだったんですよ。実際に登場させる段になって、編集さんと打ちあわせしている時に「年齢も性別も不詳ですよね」という話になって、若い女の子にするのもアリかと。
――あえて男性の名前を名乗っているマルチクリエイター少女、いそうな気がします。
おざわ 若くて天才肌の美少女という、正反対の存在とまり子さんがやりあう図はおもしろくなるかなと思いました。
――まり子さん、負けてないですし。
おざわ くらはらさんの意見を受け止めつつ、違う手で攻めていって。笑顔で相手を肯定しつつ反撃するのが、まり子ならではのやり方なんです。

――この年齢だからできる戦術ですね。
おざわ 開口一番ディスられて、もっと若い人だったらこうは返さないでしょう。高齢の人だったらどう受け止めるのか……でも、一般的なおばあちゃん像を描くつもりはないので。さらに、まり子をだれも見たことのないおばあちゃんキャラとして考えながら描いています。私は常に主役を自分に降ろして、「憑依」して考えるのが基本です。
――ずっと年齢が上のキャラクターになりきるのは難しくないですか?
おざわ 連載を始める前、まり子さんの基本設定を考えるのに苦心していた時期がありました。その頃、『ヘルプマン』を描かれているくさか里樹先生のトークイベントに行きまして、その場で「高齢者の方をずっと描かれていますが、高齢者の方の気持ちがわからなくて苦労はされないんですか?」と質問したんです。そうしたら、くさか先生は「私は高齢者って自分と別のものだとは思っていない。そんなに違いはないと思っているからそれほど苦労はないんですよ」と。目からウロコが落ちました。
――なるほど……。
おざわ 考えてみると私だって、30年前と思考はそんなに変わってないかも。じゃあ30年後もそんなに変わってないはずだと。今の私を30年、未来にシフトするだけだと思ったおかげで、すごく楽に描けているんです。くさか先生には今度ちゃんとお礼をしなくてはと思っています。
――身体や状況の変化や、起こりそうな問題に対して……感じる気持ちは、自分のままでいいと。
おざわ そうですね。私が高齢者問題の当事者になった時にどうするか、自分を当てはめて描いています。
――本作にまり子世代の方も共感したということは「80代になっても人はそんなに変わらない」が証明された形に?
おざわ 共感してもらえてうれしいです。高齢者は決して別世界の人ではないんです。
まり子に「憑依」して、事件に向きあっていくなかで発見をえる
――次々にたたみかけるように事件が起こって……かなりハラハラさせられるストーリー展開ですよね。
おざわ 「同棲編」「ウェブマガジン編」などのエピソードのなかに山をつくることは意識しています。単行本の最後に山場がくるようにして。
――単行本の最後は、各巻かなり少年マンガっぽいヒキですよね。
おざわ それはけっこういわれます。私自身、大仰なヒキが大好きなので。『進撃の巨人』の1巻のヒキとか、大好きなんです。次を読まずにいられないあの感じが。そのためには無茶な状況をつくって、そこにおばあちゃんを当てはめたらどうなるかを常に考えていますね。ちえぞうさんやガリオくんなど友だちが増えることで、未知のものに触れる状況をつくっています。
――旅の途中で仲間が増えていくみたいな感覚もあります。
おざわ まり子とちえぞうさんがゲームセンターで出会ったことで、浮き彫りになってくる「高齢の親を引き取る問題」もすごく描きたかったことです。私自身、親と離れて住んでるので、ここは気持ちを投影していますね。自分も解決しなくちゃいけない問題を創作に取り入れて……まり子なりの解決が描けたと思っていますが。

――描きながら、発見があるということでしょうか。
おざわ そうですね。ガリオくんのおかげで、ウェブマガジンをやることになりましたが、これも私的にはかなり視界が広げられたところがあって。
――「見る」と「やる」では違うわけで。「やる」気になって描かれたということですね。ウェブマガジン創刊からの流れで登場した伝説の作家、小桜蝶子さんがゴミ屋敷の住人だったというのも意外な展開でしたが。
おざわ ゴミ屋敷についてはかなり前から興味を持っていて、テーマとして挑戦したいと思っていたんです。ゴミ屋敷に関するテレビ番組をやっているとつい見てしまうのはなぜかというと、「ゴミを貯めてしまう変わった人」を見たいだけではなく、「どうしてこういう状態になってしまうのか」「それをどう解決できるのか」を見たいわけで。

――ゴミ屋敷はいまや珍しくなく、身近な問題といえそうです。何かのきっかけがあったら、自分もなりえるのではないかと……。
おざわ だれでもなりえると思います。自分が社会から必要とされていない存在になったと思ったときにすべてやる気がなくなって片づけられなくなるとか。ボーダーラインがわからなくなって自分ではゴミ屋敷だと思っていないなど、いろんなパターンがあるようですが。
――でも、他人がいきなりズカズカ入っていって片づけられるものではないから「社会問題」なんですよね。
おざわ かつて見たテレビ番組で、タレントさんがおばあちゃんのゴミ屋敷を何日も時間をかけて片づけていくドキュメンタリーがあって。おばあちゃんの歴史、思い出を、大事に扱って片づけていく姿に感動しました。もちろん、テレビなのできれいにまとめているところはあるにしろ、最終的におばあちゃんにも感謝され、よい関係を築いて去るのが印象的で……これがベースになっていますね。ゴミ屋敷専門の業者さんにも取材させてもらったのですが、やはり「壊れているから」「汚いから」「賞味期限が切れているから」と勝手に捨てたりはせず、一個一個ちゃんと確認しながら片づけているのだそうです。ゴミ屋敷ってやっぱり気持ちの問題なんだなと思います。
――ウェブマガジンも軌道に乗り始めて……今後まり子さんはどこに向かっていくのでしょう?
おざわ 結末はまだ考えてないんですけど、まり子がやりたいところまでやらせてあげたいなと思うんですけど。お年なので、自分の体の衰えに直面する時が来るであろうとは思っています。
――6巻のヒキもかなりの無茶ぶりですが、最新7巻のみどころをご紹介願います。

おざわ 蝶子さんというひとりのクリエイターにスポットライトが当たる巻です。 そして新しく「シャッター商店街編」が始まりますが、これも前から描きたかったネタです。よくニュースでも取り上げられていますし、私自身、グルメの取材をするなかで、商店街の苦境を目の当たりにすることがあって。
――そうでした、おざわ先生は『ホッピーがススム看板メニューめぐり』(『本当にあった笑える話』ぶんか社)、『突撃!あなたの町の中華屋さん』(『めしざんまい』ぶんか社)と、グルメルポ漫画も連載中ですよね。
おざわ ページ数は短いですが毎回取材に行くので結構たいへんなんですよ。
長年やってきたけれど閉めざるをえないお店の事情、それにどのように気持ちの整理をつけるのか。それに対してまり子さんがどう働きかけるのか、ご注目ください。

――ありがとうございました!
『傘寿まり子』第7巻は本日7月13日発売です!!
取材・構成:粟生こずえ









