【インタビュー】おざわゆき先生『傘寿まり子』 祝・講談社漫画賞受賞! 主人公は80歳のおばあちゃん!?
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人気漫画家のみなさんに“あの”マンガの製作秘話や、デビュー秘話などをインタビューする「このマンガがすごい!WEB」の大人気コーナー。
今回お話をうかがったのは、おざわゆき先生!
両親の戦争体験をマンガに落とし込み、そのリアルな生活観と巧みな心理描写で一躍人気作家となったおざわゆき先生。
そんなおざわ先生の注目の新作『傘寿まり子』のヒロインは、なんとひ孫を持つ80歳のまり子!
一見かわいらしいおばあちゃんの、のほほんストーリーを想像するが、驚くことなかれ。
まり子は第1話から、3世帯住宅からの家出をやってのけ、第2話でさっそくマンガ喫茶デビューを果たす……など、その品のある見た目とは裏腹に、かなり根性と行動力のあるおばあちゃんなのである。
作中にはまり子以外にも多くの70代、80代のキャラクターが登場するが、まり子同様、彼らの前にも様々な"老後に待ち構える現実問題"が横たわる。そんな恐ろしいほどのリアリティを見せつつ、また一方ではそんな彼らが現実に立ち向かう姿に、おどろくほど勇気をもらえるのだ。
そんな本作は『このマンガがすごい!2018』第6位、そして第42回講談社漫画賞一般部門を受賞!
80歳のまり子がなぜこんなにも読者の共感を得たのか、そもそもなぜ80歳の女性を主人公にしたのか、その秘密を探るべく、「このマンガがすごい!」編集部は、講談社最上階へと向かった!
おざわゆき
愛知県出身。
高校生の時に集英社の少女マンガ誌「ぶ~け」でデビュー。代表作に夫・渡邊博光との共著『築地まんぶく回遊記』(ぶんか社)、『築地あるき』(飛鳥新社)や、実父の体験を描いた『凍りの掌-シベリア抑留記-』(小池書院)など。母の戦争体験を元に描いた『あとかたの街』(講談社)にて、第44回日本漫画家協会賞を受賞。現在は「BE・LOVE」にて『傘寿まり子』を連載中。
まり子は『あとかたの街』のあいちゃんと同世代
――このたびは第42回講談社漫画賞一般部門受賞、おめでとうございます!

おざわゆき先生(以下おざわ) ありがとうございます。講談社漫画賞はずっと目標にしておりましたので、本当にうれしいです。ノミネートされたときから手をあわせて祈っておりましたので……。これをとれたからがんばれるという気持ち。
――旬の話題のあとで恐縮ですが、『このマンガがすごい!2018』オンナ編第6位獲得のご感想もいただけるとうれしいです。
おざわ たいへん思いがけなく、うれしかったです。『あとかたの街』が20位で(『このマンガがすごい!2015』オンナ編)私はこれが限界だろうな……なんて思っていたので、初めて10位圏内に入れて、これは勲章にできるなと思いました。
――『凍りの掌 シベリア抑留記』、そして『あとかたの街』もたいへん話題となった作品で、おざわゆき先生というと戦争マンガのイメージが強くなった感があります。そこへ登場した『傘寿まり子』にはかなり意外性を感じました。
おざわ 読者をびっくりさせたいとは常に思っていますが、戦争もののあとに何がいいのかなと……正直、深く考える前に高齢者を主人公にするというアイデアがおりてきて。これはかなりインパクトがあるんじゃないかと。

――1巻のあとがきマンガにも描かれていましたね。
おざわ 母だけでなく、周囲に元気いっぱいで若々しいお年寄りが何人かいて。『あとかたの街』の時に、母世代の娘時代を描いたので、今度は母世代の現在を描くのもいいんじゃないかと。あいちゃんは、今どうしてるかなという感じで。

――そう思うと、また違った感慨がありますね。80歳のまり子さんは戦争を体験している世代でした。
おざわ 今のところいっさいそういうエピソードはでてきていませんが。機会があれば追い追いだせばいいかなと思ってはいます。
――それにしても80歳のヒロインとはずいぶん思いきった設定です。『BE・LOVE』の読者に響くのではという狙いはあったのでしょうか。
おざわ そこまでは考えていませんでしたが、自分にとって新しいチャレンジになる、描きがいのある題材になるだろうと。受け入れられるかどうかはまったくわかりませんでしたね。読者にとって等身大ではないので。
――まり子さんと同世代ではなくても、その冒険を応援しつつ共感できますし、またちえぞうさんの娘や、まり子の息子夫婦、孫夫婦の視点にも共鳴して読めるおもしろい構造になっていると思います。
おざわ 私と同世代の方や、またこれからひとりで生きていこうと考えている妙齢の女性から「私がぼんやり思っている未来が明確になって描かれた世界だと思いました」というような感想をいただいています。80歳はまだずっと先の方たちも、そういうことをぼんやり考えているんだなと……。

「リアルまり子世代」の読者も増殖中!
――元気なお年寄りが多いのを実感していて、実際自分がその歳になったらどんな暮らしになるのかな、と想像しているんですね。わかります!
おざわ 「自分に近いものを感じる」と、そういう感じで読んでくれる人がいてうれしいですね。私としても、決して人ごとじゃないと思っていますし。また、私の同世代の人からは、「母が楽しみに読んでいます」という声もあります。
――まり子と同世代の、80代の読者も多いのでしょうか。
おざわ はい。昨年(2017年)の秋にNHKの番組で紹介されたことを機に、今のマンガに触れていない「まり子世代」の方々がたくさん本屋さんに注文しにいってくださったということがありました。そこから「まり子世代」の読者が増えて……。また、ありがたいことに読んだ方が、趣味の会だったり病院だったり、同世代の集まる場所で口コミで広めてくださっているようで。
――ネットではなく、口コミが生きている世代ですね! まり子世代の方からは、どんな感想が寄せられていますか?
おざわ 「私もこんなふうに元気になりたい」「希望が持てるようになりました」という感想を……メールではなく、自筆のお手紙でいただくことが多いです。それから、大きい封筒が届くことがあって。感想に加えて、趣味の作品などを同封してくださる方もいるんですよ。
――えっ……たとえばどんな?
おざわ 絵や文章や、ご自分の演奏のCDだったり、変わったところではご自分の発明品のパンフレットのコピーだったり。「私、今こういうことやってます」と、友だち感覚で、何か共通点を見いだして送ってくださる方がちょいちょいいらっしゃってうれしいです。

――まり子さんを、同世代の頼もしい仲間のように感じるのでは。 『BE・LOVE』の読者のみならず、幅広い層に愛されているのですね。
おざわ そういえば、知りあいの編集者さんが、小学生の娘さんに「お父さん、このマンガ、今学校ですごいはやってるんだよ」と勧められたそうなんです。
――小学生も!? これを小学生で読んだら、確実に人生観が変わりそう(笑)。
おざわ 小学生が読むに堪える内容でよかったです。
――キャッチーでスピード感があるからじゃないですか?
おざわ ゲームが得意な、ちえぞうさんのようなおばあちゃんがでてきたりするのも、親近感が持てるのかもしれません。
現実に高齢者の直面している問題を盛りこみ、まり子に乗り越えていってもらいたい
――本作は元気なおばあちゃんの痛快な冒険物語ですが、「老いの障壁」のリアルさにハッとさせられます。山あり谷ありで、それもスピードが速い。
おざわ ジェットコースター的、といわれますね(笑)。
――なんだかんだうまくいくのだろうと思っていたのですが、部屋は借りられないし、同棲したと思ったら八百坂さんの高速道路逆走事件で……予想を裏切られてばかりです(笑)。
おざわ これは当初から描きたかった要素です。現実でもこうした事件が頻発して、ニュースを賑わせていて「高齢者は免許証を返上しろ」といった声が多く上がっています。生活するうえで自家用車が使えないと不自由などの事情を抱えているとしても、事故が増えているのは事実です。SNSを見ていても、高齢者の逆走や危ない運転を見かけたという発言があり、事故にならないレベルでも増えているのではないかと。ですので、高齢者の問題のひとつとしてだしてみようと思いました。劇的にひどいことにならない、ギリギリのエピソードとしておさめてはいますが。

――甘いロマンスの真っ最中に、あんな超現実的な水の差し方とは、参りました! 80歳でも素敵な恋はできるとウットリ、同棲して住まいの問題も一発解消したところで……。
おざわ 現実に引き戻されるというか。もちろんこのまま仲よくしていくのもアリだったんですけど。八百坂さんについて認知症であるとは名言していませんが、それっぽい傾向があることは描いています。そこに高齢者の障害が浮き彫りになるという構図です。

――八百坂さんの家族の反応がまたすごくて、いかに2人が独身同士でも、高齢者の恋愛は一筋縄ではいかないんだなと。
おざわ 以前、高齢者の婚活を取りあげた番組を見たのですが、実際に結婚までいくのは難しいそうです。当人同士は結婚したい気持ちがあっても、娘や息子の反対で成就しないことがあると。悲しいことですが。
――遺産狙いではないかと疑ったり、あるいは、その歳で恋愛するのは気持ち悪いという感情もあるのでしょうか。

おざわ 彩花(まり子の孫の妻)に「自分の母親が誰かに甘い感情を持ってるってかなり衝撃」といわせているんですけど。これが嫌悪感の象徴なのかなと描きながら思っていたんですが。

――彩花は、まり子の恋愛に対して肯定的ですが、それも距離感があるからなのかも?
おざわ 自分個人としては肯定できるけれど、冷静に「息子さんの感情」を代弁しています。それに、まり子さんが「だよね」と思わされるところを描こうと思ったんですよ。
――よいか悪いかではなく、これがひとつの現実ということですね。
おざわ マンガでは死んだ夫に延々操を立てる美談がでてきがちですが、まり子さん別に思いだしたりしないんですよね(笑)。現実には、まり子さんのように忘却してる人もいるんじゃないかと……これもまた現実。どちらでもいいと思ってますが。でも、気づいたら、まり子さんの夫のこと、ここまでほとんど描かないできちゃったなあと(笑)。

取材・構成:粟生こずえ
■次回予告
次回のインタビューでは、おざわさんがどのようにまり子の感情を描いているかなど、その制作秘話に迫ります!
インタビュー第2弾は7月13日(金)公開予定です! お楽しみに!
(C)おざわゆき/講談社







