『ブルーピリオド』 (山口つばさ) ロングレビュー! リア充マイルドヤンキーが藝大受験に挑む!! 絵を通じて広がる世界は、彼にどう映るのか!?
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話題の“あの”マンガの魅力を、作中カットとともにたっぷり紹介するロングレビュー。ときには漫画家ご本人からのコメントも!
今回紹介するのは『ブルーピリオド』
『ブルーピリオド』著者の山口つばさ先生から、コメントをいただきました!
著者:山口つばさ
このたびは、2月の「このマンガがすごい!」ランキング オトコ編第1位&ロングレビューありがとうございます!
マンガやアニメは、日本人にとってもっとも身近な美術のひとつだと思っているので、マンガを読む人にとって影響力のある「このマンガがすごい!」で取りあげていただき、本当にうれしいです。
「このマンガがすごい!」をきっかけに『ブルーピリオド』を読んでくれた人が「美術って思ってたより楽しそうだな~」と思ってくれたら、さらにうれしいです。
東京藝術大学の絵画科は、現役生にとって東大以上に狭き門。そんな超難関に金髪ヤンキーがゼロから挑む! 新海誠の短編アニメーション『彼女と彼女の猫』のコミカライズも好評だった山口つばさの最新作は、美大受験をテーマにした青春譚だ。

高校2年生の矢口八虎(やぐち・やとら)は、酒とタバコと夜遊びの日々。だがその裏では勉強もしっかりとこなしており、成績は常にトップクラス。充実したスクールライフを送っているように見えたが、空しさを感じることも多かった。
そんなある日、たまたま美術室で見かけた1枚の絵に心を奪われた八虎は、美術の授業で課題に出された「私の好きな風景」に着手、徹夜明けの目に飛びこむ早朝の渋谷を「青」で表現した。ヘタクソながら完成させたその水彩画が、彼の運命を大きく変えていく。

人づきあいも勉強もそつなくこなす高校生が絵のおもしろさに目覚め、藝大受験を決意するまでの導入がとにかく激熱! イッキに世界観へ引きずりこまれる。仲間とバカ騒ぎしながら青春を消化する毎日はそれなりに楽しいが、そこにはなんの“手ごたえ”もない。拙いながらも自分の感性で描きあげた絵を悪友たちがアレコレと評してくれたとき、うわべの会話ではなく、初めてコミュニケーションがとれた気がして八虎が涙ぐむ姿は、世代を問わず共感を呼び、胸に迫るはずだ。

脇を固める美術部のキャラクターたちは曲者ぞろい。超美形で学ラン×スカートという奇抜な女装家のユカちゃんこと鮎川龍二は八虎と犬猿の仲。八虎が目を奪われた鮮烈な油絵を描いたのは3年生の森先輩。小柄な美少女だが芯のある女性であり、先に美大を受ける彼女が八虎の指針となる。
そして最大のキーマンとなるのが美術部の顧問である熟年女性教師(おばあちゃん先生)。絵の基礎を無理なく教えることはもちろん、「好きなことは趣味でいいのでは?」と美大受験に懐疑的な八虎にその意義を伝えてくれる。その凛とした立ち姿がたまらなくかっこいい。

八虎が実家の経済状況を考慮して日本唯一の国立美大=東京藝術大学一本に絞るところもポイント。2浪3浪当たり前の藝大・絵画科に高校2年生の夏からズブの素人が現役合格を目指すなんてまずありえない話だが、もともと努力家で要領のいい八虎がグングンと力をつけていく様は「ひょっとしたら?」とワクワクする。
道具や技法など美術のノウハウもそこかしこに散りばめられており、読んでいるだけで絵が上達した気分になれること請けあい。劇中に登場するデッサンや作品は、実際に藝大合格を果たした生徒から借りたものも含まれる。だからこそ説得力は抜群だ。

恋愛エピソード等で物語が横道にそれることもなく(なにせヒロインのユカちゃんは男ですし)、ひたすらストイックに八虎が藝大受験へと邁進するのも清々しい。本当に好きなこと、やりたいことを見つけて人生が動き始めた人間の強さをここまで見せつけてくれると、読み手であるこちらまで背筋が伸びる。
第1巻終了時点で季節は冬に変わり、受験まで1年ほどに迫った。予備校にも通い始め、ライバルとも出会い、臨戦態勢が整いつつある。自分は天才ではない。それでもやった分だけうまくなることを知っている。そんな八虎の無謀とも思える挑戦から目が離せない。
<文・奈良崎コロスケ>
中野ブロードウェイの真横に在住。マンガ、映画、バクチの3本立てで糊口をしのぐライター。
©山口つばさ/講談社







