【インタビュー】大今良時『不滅のあなたへ』「どうすれば死から遠ざかることができるか」―― 著者が自身に課した課題とは!?
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人気漫画家のみなさんに“あの”マンガの製作秘話や、デビュー秘話などをインタビューする「このマンガがすごい!WEB」の大人気コーナー。
今回お話をうかがったのは、大今良時先生!
“それは更なる 刺激を求めて 歩き出した”――。
第1話が発表されるやいなや、今までにない主人公・世界観・物語に圧倒され、マンガファンの間で一気に注目を集めた『不滅のあなたへ』。
『このマンガがすごい!2018』ではオトコ編第3位にランクインした本作ですが、今回、ランクインと最新第6巻発売を記念して、大今良時先生にインタビューをさせていただきました!
『このマンガがすごい!2015』オトコ編で『聲の形』が第1位となり、はや3年……。前作からの変化や『不滅のあなたへ』制作秘話などをたっぷりうかがいました。
さらには先生の秘めたる“パラグライダー欲”と“モグラ愛”も発覚しちゃった!?
著者:大今良時
2009年『マルドゥック・スクランブル』で連載デビュー。その後『聲の形』を経て、現在は「週刊少年マガジン」(講談社)で『不滅のあなたへ』を連載中。
最新第6巻は2月16日(金)発売。
前作からの「課題」に取り組むための『不滅のあなたへ』
――(前作『聲の形』が『このマンガがすごい! 2015』オトコ編で第1位になった時は、ちょうど最終回を描かれている最中でした。その時のインタビューでは「次はファンタジーをやりたい」とおっしゃっていましたね。
大今 はい。
――宣言どおりに、今作『不滅のあなたへ』はファンタジーになりました。
大今 連載開始のタイミングは、自分で決めてないです。編集部から「この号から始めるよ」といわれていたので、あれ? もう?、と。
――連載までの準備期間が短かったんですか?
――『聲の形』の連載終了直前には、「(連載が)終わったらゲームしたいッッッ!」といってましたもんね(笑)。
――それではまず、本作ができあがっていくまでの経緯をうかがいたいのですが、本作のタイトルを『不滅のあなたへ』に決めた理由をお聞かせください。
大今 ニュアンスだけが決まっていて候補を何案か出したんですけど、私は結局どれもピンときてなくて。じつは最初に思いついたのが『不滅のあなたへ』だったんですけど、それを担当さんに出したら「それが一番いいじゃん!」といわれて。
――どういった時に思いついたんですか?
大今 これは、おばあちゃんが死ぬかもしれない、って時にポッと思いついた言葉なんですよ。
――作品の舞台をファンタジー世界に設定した理由は?
大今 ファンタジーだと、変なことができるじゃないですか。変な人を描いてもいいじゃないですか。
――たしかに人間の腹のなかで酒を保管しようと考える爺さん(=酒爺)なんかは、そうとう変な人ですね。
大今 「これとこれとこれをやるには、現代では無理だなぁ」と思うことがあって、それだとファンタジーのほうがいろいろできるな、と。
――なるほど。ファンタジーとはいっても、近未来ではなくて過去にしたのは?
大今 それは作品のなかで時間が進んでもいいように、古めに設定しました。
――以前、「テーマがないと描けない」ともおっしゃっていました。「何を考えたいのか、何を伝えたいのか、を決めなきゃ」と。
大今 それは、『マルドゥック・スクランブル(以下マルドゥック)』の時からの課題を消化しよう、という感じです。
――具体的にはどういったところでしょうか?
大今 (『マルドゥック』の主人公の)ルーン=バロットには自殺願望があって、なぜ自殺願望が生まれるのか、そこから遠ざけていくにはどうしたらいいのか、どうすれば救えるのか、ということです。それは『聲の形』でも考えました。今回の『不滅のあなたへ』でもその課題に向きあうということが出発点になっています。あとは「自分が死ぬための準備」ですね。
――えっ!?
大今 自分が望むかたちで死ねるかどうか、死ぬまでにやりたいことができるかどうか。
――そういうことですか。いきなり「死ぬための準備」というからビックリしました。
大今 やりたいことを全部やるには、時間がなさすぎて……。あー、やりたいことありすぎる。時間足りないー!
――それはマンガ創作の時間が足りないということですか?
大今 いや、それだけじゃなくて人生すべての時間が足らないです。
――なるほど。これまでの作品と比べて『不滅のあなたへ』は描くうえで違いはありますか?
大今 そうですねぇ……。『マルドゥック』の場合は原作があるので、それを紙の上で理詰めで積みあげていく作業のような感じでしたけど、『聲の形』は感情から入っていくマンガでした。
――感情。
大今 「石田ムカツク!」とかでもいいんですけど。
でも『不滅のあなたへ』は、感情から入っているわけではないんです。なんだろうなぁ……。たぶん、未来のことを描こうとしていると思うんですよねぇ。
――未来のこと、とは?
大今 『聲の形』は昔話というか、過去の話をしているようなところがありました。過去とどう向きあうか、ですね。でも『不滅のあなたへ』はこれからのことを描いている。だから、とても悩ましいです。
秘められた大今先生の欲望と葛藤
――これからのことを見つめて、その若さで「どう死ぬか」を考えて、でも時間がないと焦りがあって……。たいへんじゃないですか。
大今 いやぁ、でも毎週「死ぬかもしれん」と思ってて……。校了がぁ、イヤなんですよ!
――週刊連載をやっている作家さんは本当に超人です。頭が下がります。
大今 ストレスがマックス。私は昔、自殺は絶対にしないと決めたんですけど「これが仕上がったら死のう」とか「終わったら樹海だ」とか思っちゃう。
――物騒な。
大今 でもまだ死ねないんですよねぇ。やりたいこといっぱいあるのに、やりたいことをできないまま、目標が達成できないまま死んでいくんだろうな、って感覚がすごいつらいんです。
――まぁ、人間うっかり死にたくなりますからねぇ……。
大今 つらい……(笑)。これはどうやったらなくなるんだろう。ゲームやってる時だけは、すごく楽しいのに。
――それは、そういう(やりたいことをやりとげる)欲を捨てないと無理、ということなんじゃないですか? 仏教っぽい言い方ですけど。
大今 ブッダとか超ムカツク。
――ブッダ、ムカつきますか(笑)。
大今 「欲を捨てればいいじゃん」みたいなこといってさぁ。「無理じゃん!」って話ですよ!
――我々読者は毎週楽しみにしているので、頑張って描いてほしいです。
大今 うう……。連載しんどい。モーターパラグライダーに乗りたい……。
――なんですか、それは(笑)。
大今 風がなくても飛べるヤツですよ、知りません? YouTubeで見たんです。あと、豪華客船に乗りたい……。
――いいじゃないですか、豪華客船。船で移動しながら原稿描いたらどうですか?
大今 ああ、それはちょっと描きたい(笑)。
――そういう「やりたいことをやりとげたい」という欲と、それができずにいるということに、本作で向きあっていきたいと。
大今 硝子やバロットや石田が、ありふれた平和を手に入れたかったように、どうすればそれが救われるのか、ですね。

――では、さらに掘り下げていくために、本作の主人公・フシについてお聞きしていきます。
『不滅のあなたへ』原点とは
――本作の主人公フシは、はじめはただの球体です。外部から“刺激”を受けることで、それと同じ姿形を獲得していきます。とても独創的な設定ですが、どこから着想を得たのでしょうか?

大今 一番大モトにあったのは、小学生の頃につくったキャラクターなんですよ。 彼を主人公にした作品も「マガジン」へ投稿したこともありました。
――そうなんですね! 最初からこういうキャラクターだったんですか?
大今 いろいろなかたちに変化するっていう設定は、連載を始めるにあたってつくったものなんですけど、どこからきているんだろう……。描き始めてからは、あとづけで『マルドゥック』のウフコックに似ているな、と思いました。それで「今度ウフコックに似ているキャラを描きます」と冲方さんにいったら、「それ、いろんなところでいってください」といわれたので、今、いいました(笑)。
――なるほど(笑)。
大今 そういえば、投稿作のときは主人公は女の子でした。
――それは、今回の連載で変えようと思って変えたんですか?
大今 審査員の先生に「主人公の男の子がかっこよかった」という感想をいただいたので「じゃあ男にしようか」と。
――それはショックですね。
大今 いやぁ、自分のことを「俺」といっていたし、乱暴でしたから。性別を感じさせないように中性的なキャラにしていたんです。私が中性的な女性が好きだっただけなんですけどね。どうなんだろう。女の子のほうがよかったですかね?
――でも、フシはマーチやパロナにも姿を変えるじゃないですか。
大今 そうなんですよねぇ。……あの、私の描くマンガって感情移入しづらいキャラが多いじゃないですか。
――そうですか?
大今 『マルドゥック』のルーン=バロットは娼婦だし、『聲の形』の石田はクズだし、『不滅のあなたへ』のフシは……人間でさえない。最初は感情が全然なかったりするので担当にも「変なキャラだね」って、いわれました。

――たしかにどのキャラも主人公としては変わっていますよね。
大今 連載で読む場合、(主人公や世界観の)前提を思いだしてもらうのが難しいから、こういう主人公は、あんまりやっちゃいけないことなんだと思います。普通の主人公だったら、予備知識がなくても読める。たとえば『ドメスティックな彼女』(流石景)とか、どこから読んでもおもしろいじゃないですか。
――読者にとって主人公は最初は“知らない人”なので、「この人はどういう人なんだろう?」と思いながら読み進めていきます。フシは設定が特殊ですけど、そんなに違和感はないと思いますよ。
大今 とにかく「いろんなことを描きたい」「いろんなキャラを出したい」という願望があるんです。いろいろな主人公を描きたい、こいつを主人公にしたいな、って願望を叶えるには「いくつ作品を描かなきゃいけないんだ!」と思って。だから主人公が姿かたちを変えたり、フシに関わるキャラクターをオムニバスっぽく変えたりしていけば、いろいろなキャラが描けるな、と。
――なるほど! エピソードごとにフシは移動し、いろいろな場所が舞台になりますね。
大今 いろいろな人種も描きたいですね。
――グーグーは裸で暮らしていますけど、第1巻の最初は雪に埋もれた村でした。
大今 第1話目の少年の住居は、船を真っぶたつにして家にしているんです。
――あ、本当だ。この天井、これは竜骨ですね。

大今 だから、“あそこに村がある”のではなく、少年は“あそこに行き着いた人たち”のひとりである、ということをほのめかしています。
――フシが獲得した姿形は、敵(ノッカー)に奪われてしまいます。その設定も、連載開始時に思いついたんですか?
大今 連載用のネームを切る時に考え始めました。
フシがなれるものの「可能性」とは? さらに明かされる“モグラ愛”
――ちょっとお聞きしたいんですけど、敵にフシ(少年)の姿を奪われたとするじゃないですか。
大今 はい。
――それを取り戻した際には、いつの少年の姿を再獲得するのでしょうか?
大今 いつ、とは?
――グーグーといっしょに過ごしているあいだに、4年が経過して、そのあいだに一度も変身しなかったことで「相応に成長した」とあります。この「大きくなった姿」を取り戻すのか、それとも最初に少年のかたちを獲得したときの姿になってしまうのか。
大今 フシが自分で経験したものは奪われないです。奪われるのは、その“器の情報”です。器とは設計画のようなもので、それを奪われれば、それになれなくなってしまう。思い出にしても、「何かをやった」という感触は残るんですけど、誰とやったのか、色、形、匂い、音は思いだせないんですね。
――その「空洞の違和感」がシルエットで示されているんですね。ということは、全部奪われても残るものがある……?

大今 まあ、残るのはぽっかりと空いた穴ですが。『マルドゥック』にもそんなセリフがありました。
――ああ、そっかぁ。フシはこのまま年を取るんですか?
大今 年は取りますねぇ。死ななければ年は取ります。
――死ぬと戻る?
大今 そのへんがコントロールできるようになるかどうかは、今度の展開次第です。グーグーといた時点では、まだ自分の意思で“選択していない”。どうするかは、まだハッキリとは明言できません。あと、思考能力も器に依存するので……。
――人間の脳じゃないと、複雑な思考はできないわけですか。
大今 動物たちがどういう思考をしているかはいくら調べても結局のところわからないので想像で描くしかないですね。
――モグラに変身した時は、視力がモグラ並になってましたね。

読者も“モグラ視点”になれるシーンだ。
大今 モグラは超かわいいんですよ。モグラのハンドブックを参考にしているんですけど、「せまい坑道のなかではすれ違えず、はげしいケンカをする」んですよ! いろいろなモグラが、こんなにも多くの種類が! ほら、こんなにも日本に!
――……『聲の形』ではヌートリアが出てきましたけど、先生、こういうモフモフした感じがお好きなんですね?
大今 ああー、好きなのかもしれない(笑)。
――モグラに変身した時は、モノローグであまり漢字を使ってませんでした。
大今 モグラにどれだけの思考力があるかはわからないですけど、ほ乳類だし、なんとなく思考ができそうな雰囲気もありますから……。

フシが変化を続けていくことで、いろいろと発見も増えていく。
――それが「器なりの思考」ということですか。
大今 だから虫とか魚とかは、痛覚とか思考とか判明していないことが多すぎるので、うかつに変身させられないです。だって甲殻類には痛覚があるっていうじゃないですか。
――ちなみにスイスでは甲殻類を苦しませないように、生きたまま調理することを禁止する法律ができるそうですね。
大今 いろいろと考えさせられますね。
取材・構成:加山竜司
■次回予告
次回、さらに『不滅のあなたへ』に隠された文字の秘密や、明かされていない設定に迫ります!
インタビュー第2弾は3月3日(土)公開予定です! お楽しみに!
©大今良時/講談社









