【インタビュー】山口貴由『衛府の七忍』読者にウケてほしくて描いている! ――著者の「パねぇ」エンターテインメント精神に迫る
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人気漫画家のみなさんに“あの”マンガの製作秘話や、デビュー秘話などをインタビューする「このマンガがすごい!WEB」の大人気コーナー。
今回お話をうかがったのは、山口貴由先生!
舞台は徳川家康が力をふるう乱世の終わり。ある日、村の仲間を惨殺され、さらに力およばず憎き敵に殺されてしまった少年・カクゴ。しかしカクゴの前に龍が現われる。このまま常世(天国)へむかうか、あるいは怨身となりて再び乱世によみがえるか? そう問われた少年が選んだのは……。
「摩 骸 神 変 怨 怨 怨――――怨身忍者 零鬼見参」!!!!
『このマンガがすごい!2018』オトコ編にランクインした『衛府の七忍』。
『シグルイ』『エクゾスカル零』『覚悟のススメ』で独特ながらも圧倒的な筆致でマンガファンの心をつかむ、漫画家・山口貴由先生が2015年から「チャンピオンRED」(秋田書店)で連載中の残酷時代劇だ。死んだものの再び異形となった者たちや、徳川家康をめぐる人々のバトル&ドラマが描かれ、話題となっています。今回、最新第5巻の発売を記念し、著者の山口貴由先生にインタビューをさせていただきました!
著者:山口貴由
1966年生まれ。1985年マンガデビュー。小池一夫の弟子。代表作『覚悟のススメ』『シグルイ』(両作品とも秋田書店)。「月刊チャンピオンRED」(秋田書店)にて『衛府の七忍』連載中。
3月19日(月)に『衛府の七忍』第5巻が発売。
キャラクターは「いい役者」。スターシステムの理由とは
――まずは『このマンガがすごい!2018』のオトコ編、第5位にランキングされたことの感想からお聞かせください。
山口 メッチャクチャうれしかったですよ! なんていうんだろうな……このうれしさは。本当「神様の贈り物」ってぐらいですよ。毎月、いろんな作品を読ませていただいていますけど、どれもおもしろくて。そのなかから選ばれるっていうのは、本当にスゴイことだと思います。それに今回の『衛府の七忍』は、正直「ウケよう」と思ってやってますから(笑)。こういう場に出てくるのも、そういう気持ちの現れで。いつもは、もっと閉じてやってるんですけど。

――山口先生の作品は、これまでも非常に熱心なファンがついておられましたけど、『衛府の七忍』は「チェスト関ヶ原」などがネット上で話題となったことも手伝って、より幅広く読まれているような印象もあります。過去作品のキャラクターと名前やルックスが共通する人物が登場はしているんですけど、だからといって以前の作品を読んでないとわからないわけではないですし。
山口 だとしたら、ありがたいことです。「これ、わかんないだろうなぁ」って思われて、そのまま読まれないのが一番怖かったんですよ。特に「昔の作品を知らないと読めないのかな」とか思われそうじゃないですか。始めた頃はそういう不安があったんですけど、たとえば店頭で書店員さんがポップをつけてくれていたりしたのもうれしかったですし、今回『このマンガがすごい!』に取りあげられたことも、まだ読んでない人の背中を押してくれるんじゃないかなと思います。まぁ、初めて読む人には「よくわかんない」ってよくいわれるんですけど、「よくわかんないけどおもしろい」ともいわれるので、だったらいいかなと(笑)。
――初見でも「とにかくスゴイ!」というのは確実に伝わりますからね。ところで、いわゆる「スターシステム」的な、以前に描かれていたキャラクターを再び登場させることに理由はあるのでしょうか?
山口 理由というより、僕の感覚としてはキャラクターが役者みたいな感じで「大部屋にゴロゴロしている」というイメージなんです。で、役者がいるならそいつらを使おうかって、そういう認識でして。それにやっぱり、かつて主役を張ったキャラクターは「いい役者」なんですよ。「コイツ、いい演技するなぁ」って(笑)。そういう役者はまた使いたくなるじゃないですか。

――なるほど、そういわれるとわかりやすいですね。
山口 もちろん、僕のなかでは作品を越えたつながりはあるんですけど、タイトルが変われば別の人だということでかまわないと思っています。なので読む側としては『衛府の七忍』に“副教材”は必要ないですよと(笑)。ほかの作品も知ってる人は、それはそれでつながりを楽しんでいただいていいんですけど。
――ファンとしては、たとえば『シグルイ』の藤木源之助が『衛府の七忍』では、犬養幻之介として登場するようなことはやはりうれしいですね。『シグルイ』は原作の『駿河城御前試合』があるので仕方ないのですけど、源之助は非常に救いのない結末を迎えるわけじゃないですか。それが今回は、まぁ残酷なことになるとはいえ、友情で結ばれた猛丸(タケル)の遺体とひとつになって怨身忍者に転生するのは、ある意味で救われたような気持ちにもなったのですが。

山口 もともと悲劇的な結末の話が、メジャー化する際に改変されるようなことは時折ありますし、そのほうが世間には広まって定着しやすいという面もあるんでしょうけれど、さすがに南條(範夫)先生が体験されたことなどを考えると、安易にハッピーエンドに変えるわけにはいきませんからね。なので『シグルイ』の結末はあれでいいと思っていますが、その物語から離れたところでまた幻之介のようなキャラクターを描けることは、たしかに僕自身にとっても救いになるところはあるかもしれません。
――ちなみに、現状でもっとも思い入れのあるキャラクターを挙げるとすれば、だれになるでしょうか?
山口 そうですね……。(兵藤)伊織ですかね?
――『エクゾスカル零』にも「兵頭伊織」として登場していましたけど、正直そんなに大活躍というわけではなかったような気がしますが……?
山口 ああいう「いてもいなくてもいいポジション」というのも、いいなと思えるポイントなんですけど(笑)、それまでと違うヒロイン像が描けたということで個人的には思い入れがあるんです。以前はそれこそカマボコ型の目に瞳もキラキラしてるようなヒロインしか描けなかったんですけど。性格的にも男に優しくて、もう“童貞ファンタジー”そのものみたいな(笑)。
――(一同笑)

12歳の時、米二俵を持ちあげ目から血が出たというエピソードも持つ豪胆娘。
『エクゾスカル零』の連載中からあった、『衛府の七忍』の構想
――ではあらためて、『衛府の七忍』の連載開始までの経緯もうかがっておきたいのですが。
山口 その話をするには『エクゾスカル零』の話もどうしても関わってくるんですけど……。もっというなら『シグルイ』が終わった時にまでさかのぼるんですが、あれを描き終わった時は本当に「空っぽ」の状態になっていたんです。“灰色の人間”みたいになっていて。でも、そういう状態ってなかなかなれるものじゃないんで、『エクゾスカル零』はそのモードのまま突っ走ろうと思って描き始めたんです。僕はストーリーを練りこむというよりは、自分のその時の気持ちとキャラクターをシンクロさせて描くタイプなので。あれはいってみれば、僕にとっては「マンガを描くためのマンガ」みたいなところもあったんですけど、とにかく最後まで暗いままでしたね。
――その状況(心境)から、『衛府の七忍』制作に至ったと?
山口 いえ。その時はまわりに人がいない、だれとも会わないような環境でやっていたんですけど、それの反動といいますか……。ふつふつと「人に会いたい」という気持ちが高まってきたこともあって、何か新しいことを始めたいなと。
なので、わりとほかの作品って急に始めちゃうことも多いんですけど、『衛府の七忍』は「今度はこういうのを描きたい」ということを、かなり担当と打ちあわせをしてからスタートしてるんです。『エクゾスカル零』は基本、人がいない世界だったので、「これがもし人がたくさんいる世界だったら、こういうことがやれるかな」というのがあったり。まぁ実際は、その打ちあわせで決めたことをぜんぜんやらないで、違うことばっかり描いてますけど(笑)。
――(一同笑)。
――では『エクゾスカル零』の連載中から、『衛府の七忍』の構想はあったということなんですね。
山口 それを『エクゾスカル』の新しい展開にしようかなと考えたこともあったんですけど、どうせやるならタイトルも変えて、違う作品として始めたほうがわかりやすいかなと思ったんです。結局、『エクゾスカル』のほうは「人はいずれ必ず死ぬ」みたいなノリでしたし、描く側があんな態度になってくると「もう読まないよ」って思われても仕方ないと思うんですよ。『覚悟のススメ』が好きだった人に怒られたこともありましたからね(笑)。
でも、それでもまだ残ってくれている人もいて、その時に「あぁ、いい読者に恵まれてるなぁ」って思ったんですけど、ここまで付いてきてくれているその人たちを、今度は笑わせてもいいんじゃないかなって。そういう、読み手に対する信頼みたいなものも『衛府の七忍』の根底にはあります。もう、僕にとってはその人たちとのつきあいが一番長いですからね。
「時代劇」への固定概念をくつがえす、衝撃の「テヘペロ」
――時代設定として、戦国時代と江戸時代のはざまのような時期をチョイスされたのはなぜなのでしょうか?
山口 ひとつは日本の中世のような出来事はずっと描かれてきたもので、それならばどんな人にも受け入れられやすいだろうなというのがありました。徳川家康や宮本武蔵といった、だれでも知ってる“スター”も出揃ってますからね。

――『シグルイ』はもちろん、ほかにまったく時代設定は違うんですけど『蛮勇引力』なども含めると、山口先生の作品って徳川家の描かれ方が独特ですよね。
山口 何か徳川に怨みでもあるのかって思われそうですけど、そんなことはまったくないですからね(一同笑)。もちろん現実では子孫の方たちもおられますし、ほとんどは立派な方々だとは思うんですけど、そういった家康をはじめとする方の偉業を著した書物はたくさん存在するので、それとは違う角度から描いてみたいという……ただそれだけなんです(笑)。それに、家康は身分制度をつくって世を安定させたわけですけど、どうしてもそういった道から外れちゃった人たちに目が向いちゃうところがあって。
特にこの時代は、まだ人身売買が行われていたり、現代とは“命の価値観”がまったく違うので、今の常識からすれば驚くことばかりなんですよね。そういうところを積極的に描きたいと思っているので、作品としてはバケモノが出てきたりして時代考証もムチャクチャのように見えるかもしれませんけど、農民たち大衆の生活描写などはわりとリアリティ重視でやってるつもりなんです。
――いわれてみるとそうですね。そこにポンと「テヘペロでやんす」や「マジすか」などの若者言葉が混じるのが、独特の作風となっている気もするのですが。
山口 単にバカっぽいテイストが自分の持ち味なのかなというのもあってやってる部分もあるんですけど、人によっては「時代劇」ってだけでダセェみたいな、そんな先入観を持ってることもあるので、そのハードルを少しでもなくしたいという考えもあるんです。当時の民衆の会話を今の言葉に置き換えると、ああいう「パねぇ」みたいな感じだと思うし、それで読み手がキャラクターを身近に感じてくれたらいいなって。

――たしかに、一気に距離感は縮まりますね。それにしても「チェスト関ヶ原」などもそうなんですけど、言葉のチョイスが絶妙だと思います。その語感と全体のテイストにギャップがあるのが、ひとつは「笑い」につながる要素なのかなと。
山口 ただ「チェスト関ヶ原」は、もともとウケを狙ってたわけではないんですよ(笑)。言葉自体は「チェスト関ヶ原」って実際に存在するものですからね。まぁ、本来は「関ヶ原で戦に負けたことを忘れるな」って意味のところを「“ぶち殺せ”の意である」ってことにしちゃいましたけど。それがそんなにウケるとは思ってなくて、あとでネット上などでの反応を教えてもらって知ったんですが、それで有名になった1コマの武市千加太郎はあっさり死んじゃってますからね(笑)。逆に狙ったところは意外と響かなかったりもして、テレビでお笑い芸人とか見ていても「そういうものなのかな」って思ったりもするんですけど。

石ノ森章太郎原作の特撮ドラマが「怨身忍者」のモチーフ
――あと、何よりキモの「怨身忍者」についても聞いておきたいのですが。まず、てっきり怨身忍者は全員が徳川の抵抗勢力だと思っていたら、そういうわけでもないんですよね。
山口 そこは徳川とその反体制派みたいなところで、それぞれに正義がありますからね。その「異なる正義」のぶつかりあいになっていくと思います。そもそもまだ「七忍」が出揃ってないんですけど、何にしても暗黒大魔王と戦うような単純な構図では描きたくないんです。そこは現代にも通じることですけど、どちらか一方だけが正しいということはありえませんから。

――ですね。それと、どういったところからアイデアが固まっていったのかもお聞かせください。
山口 ネーミングはもう、聞かなくても答えはわかってるでしょ?(一同笑) 三浦建太郎さんにも「これ『変身忍者嵐』[注1]だよね」っていわれましたけど、言葉の響きでは「変身忍者」と一文字しか違わないですからね(笑)。似てるのは名前だけで、中身は自分で考えてますけど。
注1『変身忍者嵐』 1972年~1973年に放送された特撮ドラマ。日本を征服せんとする謎の怪人と忍者集団があらわれ、化身忍者の秘法によって肉体改造された主人公が変身忍者嵐に化身し、仲間の伊賀忍者たちとともに敵に立ち向かう物語。原作は石ノ森章太郎(当時は石森章太郎)。

――それはもちろんそうですよね(笑)。『覚悟のススメ』の強化外骨格に通じるところもありますし。
山口 それに忍術的な要素を加味しつつ、時代を考えて鉄などの金属よりも生物的なパーツを増やしてみたり。アイデアとしてはそんな感じですけど。
――ちなみになんですが、マンガの『変身忍者嵐』はお読みになられていますか? 主なところでは石ノ森章太郎版や石川賢版がありますが、わりとそのあたりの作家は山口先生のルーツ的なところだったりもするのかな……と勝手に想像していたんですけど。
山口 当然、読ませてはいただいています。特に石ノ森先生のほうのは終盤にUFOが出てきたりして、なかなか衝撃的な展開でしたね。ただルーツ的なところでいうと、じつはそれほどマンガを貪るように読んでいたわけではなくて、むしろ実写版の『嵐』のウラ番組だった『ウルトラマンA』のほうが影響が強くて。自分にとってもっとも大きなルーツは、マンガよりも「怪獣」なんです。
――マジすか!(素で驚嘆)
取材・構成:大黒秀一
■次回予告
次回のインタビューでは、最後に判明した山口先生のルーツ「怪獣」など、さらにお話をうかがい、山口貴由ワールドの魅力に迫っていきます!
©山口貴由(秋田書店)2015-2018







