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【インタビュー】佐々木陽子『タイムスリップオタガール』佐々木先生が中学時代に考えた「二つ名」が今、明かされる……!? 同人誌・サークル会報誌・コピー本……オタクによる、オタクのための、オタクマンガが爆誕!

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人気漫画家のみなさんに“あの”マンガの製作秘話や、デビュー秘話などをインタビューする「このマンガがすごい!WEB」の大人気コーナー。

今回お話をうかがったのは、佐々木陽子先生!

本作がデビュー作にもかかわらず、幅広い年代のオタク女子から圧倒的な共感を得て、『このマンガがすごい!2018』でオンナ編第5位に堂々ランクインした『タイムスリップオタガール』。

本作の主人公は、城之内はとこ(30)。日夜バイトで稼いだお金を2.5次元舞台や同人誌につぎこむ、生粋のオタクな彼女だが、ある日、電車にひかれてしまう!
そして(なんやかんやあって)目覚めると……記憶はそのままで、1996年にタイムスリップしていた!?!?!?

今回は、著者の佐々木陽子先生に、同人誌好きだった佐々木先生がプロの「マンガ家」としてデビューするまでの道のりや、気になるはとこのモデル、そして佐々木先生の恥ずかしい黒歴史(!?)についてもおうかがいしちゃいました!

著者:佐々木陽子

『タイムスリップオタガール』がデビュー作となる。「COMICポラリス」(フレックスコミックス)で連載中。

現在、『タイムスリップオタガール』最新第3巻が好評発売中!

好みの「前髪の長い子」を1コマ目に描いたら、話がスラスラと……

――まずは、「このマンガがすごい!2018」オンナ編第5位獲得おめでとうございます!

佐々木  本当にありがとうございます! うれしいです! 「このマンガがすごい!」のランキングを参考に、読むマンガを探したりしていました。じつは、2011年には「このマンガがすごい!大賞」に作品を応募したこともあるんです。

――えええ!? そうだったんですね! 佐々木先生にとってはこの作品がデビュー作ですが、どのように連載が決まったのでしょうか。

佐々木  20代前半は出版社に持ちこみをしていたのですが、2014年から2015年頃は二次創作が楽しくて、ほぼ月一で同人誌をつくっていたんです。あまりに同人誌をつくっては東京へ遠征するので、家族に「オリジナルのマンガは描かないのか」とツッコまれてしまうほどでした。

そんなおり、【投稿同人誌システム[注1]】を知って、地面から浮くほど驚いたんです。二次創作でもプロの編集さんに見てもらえるなんて……! そのシステムで同人誌を投稿しようと考えたことが「やっと第一歩」を踏み出した瞬間だったと思います。

――どのくらいの出版社に送ったんですか?

佐々木  10社ぐらいです。その時現在連載させていただいている、「COMICポラリス」の現担当さんから「お話をつくることが好きそうだなと感じたので、新人賞に応募しませんか? ネームから拝見します」という返事をもらいました。

――それで、いよいよオリジナル作品を描き始めたわけですね。

佐々木  すでに申しこんでいた同人誌即売会に参加しながら、新人賞に向けてのネームをつくっていたのですが……これがおもしろくない!!! ビックリするほどつまらないんです!(笑)。 2015年の夏コミを終えて「オリジナルに集中!」といいたいところですが、最後に作った同人誌が154ページほどあったため、精も根も尽き果てていたんですよ。

そんな時、アルバイト先で、ぼ―――っとしながら、前髪の長い子を1コマ目にサラサラ描いてたんです。それがはとこでした。

  • 注1 投稿同人誌システム 出張編集部のサービスのひとつ。編集部が、同人誌や作品をイベント会場で預かり、持ち帰って講評を行う。二次創作での投稿もできる。
「コミュケ」で得た戦利品を手にホクホクしながら歩くはとこ。
そんな彼女の口癖は、「~でござる」。これはなかなかこじらせているな……。

――何かイメージを持っていたんですか?

佐々木  特になにも考えてませんでした。好みの前髪の長い子をなんとなく1コマ目に描いたらすべて滑り出した、という感じです。「この子が次こうなったらおもしろいなー」という感じで思いつくまま、小さいノートに描き進めていたら、60Pぐらいになっていました。途中「な、なにを描いているんだ……(おもしろいけど)。新人賞って32Pとかじゃないの……?」とおののいた記憶があります。連載の1話は、その時のネームだいたいそのままです。

デビュー作がまさかの連載作になるなんて!?

――タイムスリップのアイデアもそんな感じのノリで?

佐々木  はい。バイト先のカウンターでひらめいて……「お!」となって休憩室まで走って「これだー!!」と両手を挙げて小躍りしました。

――で、その60ページを新人賞に送ることになったのですね。

佐々木  とはいえページ多すぎだし、未完だし、オチも想像ついてないし。どうしようかと思ったのですが、もうこれは編集さんの判断を仰ごう、と。そうしたら編集さんから「おもしろかったので転がるところまで転がしちゃってください!」とお返事を頂き、それから数回に分けて続きを提出して……描き終えたら205ページになっていました。

――めっちゃ興に乗ってますね!!

佐々木  最後まで描いてみたら思いのほかよくネームが作れたので、新人賞に出したら何か賞に引っかかるんじゃないかな、とニヤニヤ笑いとソワソワ夢想しながら時間を過ごしました。でも、まさか「この作品を連載してみませんか?」といわれるなんて思ってもいなくて、「!?!?!?!?!?」みたいな、めちゃめちゃ驚いて、バイトの帰り道はずっとフワフワしてました。

――そこから、連載作として編集さんといっしょにブラッシュアップしていった、という感じですか?

佐々木  第1話はほぼほぼそのままだったのですが、第2話からはわかりやすくしたり、一話にまとめることを意識した話づくりというものを担当さん指導のもと進めていきました。すでに最初に描いた話にだいぶ肉がついて、自分でも驚きの方向へ進んでいます……!

――初期設定と変わったのはどんなことですか?

佐々木  冒頭からず――っと続いていた「はとこのモノローグ」量の減少です。それにともなって、人と関わったり話したりし始めた点でした。ずーーっと心のなかで一喜一憂していたはとこが、連載中にちゃんと会話できるようになってて、「はとこすごいぞ!」って思いました。あと長谷川というキャラクターが6割増しくらいはとこに絡んできていますね。

中学時代に戻ったはとこは、当時はとこをいじめていた宿敵・長谷川と再会する。
あいかわらず嫌がらせをする長谷川だが、このあと彼に悲劇が……!

――これまでで、特に描きたかったシーンは?

佐々木  8話(第2巻に収録)のリュータとはとこの会話「お尻とお尻でおしりあいですな」……ですね。担当さんに「なんならこのコマ、決めゴマ(見せ場となる大きなコマ)より大きいですが、いいんですか?」といわれたのがあまりにおもしろくて気に入っています! 7話の「お金が出せるようにきちんと貯めておかねばなるまい(お金だけに)」などの、本筋に関係ない、しょうもないギャグを挟めた時、「フフフ」ってなっています。

渾身のオヤジギャグを同級生のリュータに披露し、爆笑するはとこ。
あまりのしょうもなさに、リュータも引いてるぞ、はとこ……。

同人+アニメ+マンガを取り巻く世界のすべてが好き!

――はとこが1996年にタイムスリップしてからの「働かなくても良いでござる〜」には、一気につかまれました(笑)。

佐々木  ここは描きながら笑いが止まりませんでした。ズアッとした煙が好きです。ネームをつくっていた当時はアルバイトをしていたので、もしタイムスリップしたら「やったー!労働から解放されたー!!」ってまっさきに思うだろうなと。今は辞めてしまってお客さんとの会話とかいっさいなくなってしまったのが、ちょっとさみしいです。いろいろなお客さんと話すのが好きだったので。

働かなくてもいいうえに、おまけに毎日遊んで暮らせる……!
今考えると、学生時代って本当に自由だったんだな……と思い知らされるひとコマ。

――「96年当時のリアルな《中学生》オタク事情」が紹介されるのも本作の柱ですが、これは佐々木先生ご自身の体験そのものですか? 

佐々木  まんまではないですけれど、私が触れてきたものです。出てくる雑誌やアンソロジー、サークル会報誌に参加したり、コピー本やコピー便箋や、16時に窓口が閉まる郵便局へ小為替を走って買いにいったりすることも含めて、同人+アニメ+マンガを取り巻く世界がすごく好きでした。これからもできるだけ地方の事情を盛りこめたらと思っています。

まだインターネットがオタクの世界に普及していない1996年、同人活動はすべて手書き&郵送で行われていた!
会報誌を通して、はとこたちオタクは心を通わせていたのだ。

――1話に登場する「雑誌切り抜き手づくりカレンダー」にはかなりグッときました。子どもの頃の手づくりアイテムって愛おしいですよね。

佐々木  私はマンガの扉絵をそのまま壁にポスターみたいに貼っていました。あと、カラーの投稿はがきコーナーのイラストを切り抜いてまとめたり! それを小袋に入れて学校へ持っていき、参考にしてお絵かきとか! ……な、懐かしくなってきた……! 

「アニ●ディア」の投稿コーナーだけを集めて閉じた「投稿コーナーだけの本」みたいなのをつくっていましたっけ。

――作中に登場する「私の考えた設定」は、先生が当時描かれたものがモデルになっているんですよね? いかにも90年代後半という感じで大爆笑です!

佐々木  持っているノートのなかから、ちょうどいいものを見繕ってトレースする羽目になりました。なので、このページだけは、自分でも直視できなくて(笑)。この回の最後の最後まで手がつけられなくて、作業もだいぶたいへんでした。

ガタガタな顔の輪郭、目の大きさ、そしてムチャクチャすぎる設定……あるあるすぎて胸が痛い!
そしてなぜか自分のサインを練習して、手紙とか交換ノートで披露しちゃうのもあるあるだ!!!!!

――身に覚えのある読者は多いと思います。私もですが(笑)。

佐々木  小学生当時のノートを1冊も捨ててなかったのですが、読み返してみたら……。まさか本当に「背中から羽が生えて」たり「片目つむって涙+背景に飛び散る羽」、「悪魔モチーフ」が出てくるとは思わなくて、なんでこんなに胸がハヒハヒするのか苦しみながら描きました。

――こういった当時モノを「黒歴史」として一生封印する人もいるかと思いますが、なぜここまでドーンと載せようと思ったのでしょうか?

佐々木  これは交換ノートでしたからね! 私は交換ノートを「友だちと絵を描きあった楽しい思い出」、そして冊数を重ねるたびに自分の成長も記録される大切なもの、と思っているので「恥ずかしい! ちょっぴり胸が痛い、でも友だちとやってたワクワクもあったよね!」みたいな感じでとらえているんだと思います。封印なんてもったいない! はー! でも恥ずかしいですよね!


――ほかに佐々木先生ご自身のエピソードを使っているところはありますか?

佐々木  みのりんのペンネームの「魅野璃(みのり)」は私が中2の時につけたペンネームの一文字違いです。恥ずかしい……。

――はとこは、ズバリ佐々木先生がモデルですか?

佐々木  ん――――……意識的に「はとこを私として描こう!」と思ったことはないです。が、地が出てしまっているんでしょうね、わはは! 第1話を見た時点で、4人ほどから「佐々木さん本人を見ているみたいだ」といわれた記憶が蘇りました。

オタク台詞が自然とわき出て止まらない!?

――佐々木先生は、どんな中学生でしたか?

佐々木  あんまり頭がよくなかったんですが(笑)、勉強・部活・交友関係など中学生なりの悩みを抱えながらも、楽しく友人と交換ノートしたり、初めて同人誌即売会に参加したり、先輩に同人を教えてもらったりしてました。

――はとこのいかにもオタクらしい喋り口調、振り幅の広い表情がめっちゃ楽しくて、このグルーヴだけでもグイグイ読まされます。

佐々木  自身がオタクなので、オタク台詞ばかりは底なしにわき出てきますよね! ただ、専門用語が出すぎると、わけがわからなくなるので、言いまわしには工夫が必要です。はとこの顔は……もうこれは長年オタクとして色々なコンテンツに触れているので、絶妙な顔になってしまうんですよねぇ……。

なんとかまわりの生徒にバレずに、自分の席を見つけ出し着席できたはとこ。
しかし遅刻したことによる先生からの呼び出しに、この表情の変わりよう……! これもオタクだからこそ……なのか?

――96年当時と現代では「オタク」の意味も、とらえ方もずいぶん変わっています。佐々木先生個人としては、どのような違いがあると感じますか?

佐々木  昔は「オタクであることに対して弁解が不可能」で、偏見も強かったように思います。だから友人も私も含め「オタクであっても一般人に見えるように秘めて隠して」いました。バレたら普通の扱いをしてもらえない……みたいな張り詰めた空気は持っていました。今はゲーム、アニメ、ネットと枝葉に分かれ、昔「オタク」とされていた行為が分散されていて、また人口も増え、SNSでもどんどん意見が発信できる。96年に肩身の狭い思いをしてきた子が大人になって、「オタク」の偏見を解く。そういった姿も見られます。

「えっちな塗れ場」が描かれた門外不出のノートを紛失したはとこ。
好きなものを思いきり描きたい反面、まわりの反応や世間体を気にしてしまうのも、よくわかる。

――本当に隔世の感があると思います。

佐々木  職場の同僚のお子さんの間で「学校で初音ミクの曲(千本桜)が流行ってる」と聞いたときは時代が変わったな、と思いました。今の小中学生は「オタクは変なことじゃない」という意見を持ってたり……してほしいですね(希望)。

――佐々木先生が中学時代にタイムスリップしたら、何をしたいですか? やり直したいことはありますか? 

佐々木  人を大切にしたいです! あとは勉強したいです! やり直したいことは、小学校の頃、先生の話を聞かないで動物園で迷子になったので、なんとか先生の話を聞きたいです!(笑)

『タイムスリップオタガール』 第3巻

佐々木陽子 フレックスコミックス ¥600+税
(2018年4月12日発売)

取材・構成:粟生こずえ

■次回予告

次回のインタビューでは、『タイムスリップオタガール』を読んだ読者さんからのファンレターに、佐々木先生号泣!? さらに4月12日に発売された最新第3巻の見どころなど、おうかがいしました!
インタビュー第2弾は5月14日(月)公開予定です! お楽しみに!

©佐々木陽子/COMICポラリス ©フレックスコミックス


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